縫製技術者を目指している皆さんはきっと色んな事でお悩みだと思います。
専門学校で学んだにも関わらず縫製工場の
求人がない
。
縫製技術をもう1歩深く学びたいのに
教えてくれる所がない
。
縫製工場は閉鎖的
で自分をステップアップできない。
(いつか自分の店を持ちたい)
きっと、これ以外にも皆さんには悩みがあるでしょう。
でも、この様な事は当社に限らず国内の
ほとんどの縫製工場で起きていること
です。
ではどうしてこんな事になるのでしょうか?
昨今の縫製工場の現状や、技術者を目指す皆さんの
現状
、そして両者の
将来像
について考えてみました。
■ 縫製工場の現状と将来 ■
日本の縫製工場の現状は、
惨憺たる状況
です。
発注者に工賃を値切られ、設備投資も十分出来ないどころか、人材投資も出来ず、もう何年も若手従業員がいない...という工場もざらです。
そして、当社のように小規模でありながらも技術的は専門性の高い工場にこの傾向が顕著に現れています。
ですから当社も従業員の平均年齢が60歳を越えている状態でこのままではあと10年後には企業として存続し得ません。
では、
何故これまで技術者を育成できなかったのでしょうか?
これには
3つの理由
があります。
1つ
、
若年技術者が定着しなかった
こと
>>>
これは工場の低賃金の問題もありますが、それ以外にも若手技術者が工場に対して技術を学んだら「はい、サヨナラ!」と退職するケースが多く、工場や職人側が真剣に教える気持ちを失ってしまったことが一番の原因です。
「将来お店を持ちたい!」という気持ちだけで工場に就職し、技術習得後すぐ退職されては、工場はお給料を払って技術を教えた事になりますから当然こういった事は続けられません。
このため、工場側が採用に消極的になってしまったことが挙げられます。
ですから工場で技術を学ばれようとするのであれば長く勤めることを前提にして下さい。
2つ目
、
工場そのものに魅力がない
から
>>>
これまでの縫製工場は発注者の仕様に基づいて縫うことが仕事でした。
このため、縫製工場はファッション関連の業界にありながらファッションとは無縁の仕事をする会社になってしまい、発注者が決めた仕様の物しか作れなくなり(=自分達でオリジナルの物を考えられない)工場としての魅力がなくなっていました。
誤解を恐れずに言えば、卑屈な安っぽい下請け根性が蔓延していました。
これでは夢を持ちたい技術者を育成できません。
またこれが原因で若年技術者が定着しなかったとも言えます。
3つ目
、
給与水準が低い
から。
>>>
これもまた悲しきかな、現実です。
上述の全てが複雑に絡み合い、工場の収益が出されますが、縫製工場は自社の特徴がなく、どこで作っても同じ物を作っていましたから、後は工賃の叩き合いです。
そうすると必然的に工場の収支は悪化して、従業員に良い待遇をすることが出来ず、これが悪循環となり人が定着しないのです。
これで縫製工場は企業として永続できるでしょうか?
昨今は中国、ベトナム、北朝鮮など低コストで縫製をする国は幾らでもあります。
■ それでは三久服装はどうですか? ■
工場の現状は上段でお伝えしたとおりですが、それでは当社はどうでしょうか?
『当社でも基本的な実態は↑と変わりありません。』
ですが、当社は平成17年頃より幾つかの目的を持って
生まれ変わりつつあります
。
1つ、
顔の見える工場
になろう。
>>>
工場の経営が苦しくなった一番の要因は、大切な縫製の仕事を発注者の仕様にお任せしていたことでした。これで工場としての独自性を失い、価格競争に陥ってしまったからです。
そこで、当社では顔の見える工場として、工場スタッフが積極的に販売店の店頭を訪れ、時にはスタッフ自らが接客・仮縫い・フィッティングをして、消費者の
生の声を聞く
体制に変えました。
そしてこのことをHPを通じて、あるいは販売店を通じて「●●工場スタッフによるオーダー会」のような形で浸透し始めてきています。
これはとりもなおさず、
自分達の仕事に付加価値を高めること
に繋がります。
2つ目は、
顔の見える職人
を作ろう。
>>>
工場の顔が見えるようになっても工場はスタッフ一人一人の集合体です。
従来的な工場では職人は寡黙で頑固、口べたと思われていましたがこれからはそうでない生き方をする者も必要になってきます。
一人一人が、どこに出ても恥ずかしくないようなそんな職人を目指しています。
こうして当社は当社ならではの専門性や技術を生かし、それを高くご評価いただける方に販売していきたいと思います。
そしてこの結果が次のような
新商品開発
として結実しています。
和風4点セット
>>>
こちらは大正時代から昭和初期の製品を現代的に再現した製品です。
画像は左から次の通りです。
とんび
>>>
こちらは和装好きなお客様からご相談を受けて開発しました。
大正時代頃の製品を解体し、型紙を作成、同時に縫い方の手法を学び現代に再現しています。
マント
>>>
マントは第二次大戦中の米国海軍将校のマントをベースに作成しました。
一枚仕立てのため毛並みのある素材はNG等苦労はありましたがなかなかの製品になりました。
角袖
>>>
和装にかかせない角袖にも挑戦しました。古着から型を抜き型紙を作成し、そこから復元しました。
昨今のオーダー工場で角袖まで縫製できるところはあまりないのではないでしょうか。
インヴァネスコート
>>>
こちらは大正時代洋装化の流れの中で流行したインバネスコート。
ステンカラーやチェスターコートにケープを付けた物ですが最近見ることは滅多になくなりました。
ナポリを意識した製品作り
>>>
ハンドメイドの世界は多分に英国調のしっかりした仕立てに傾倒しがちですが、ここは発想を転換し、 若い感性でイタリアナポリ風の軽い仕上げの製品開発にチャレンジしました。
芯ナシ一枚仕立て
>>>
こちらは芯地を一切使わない(除く上襟)仕立て。フロントがペラペラし、プレスラインを崩さないようにするためには 大変な技術が必要な仕立てです。
最近はこの技術を応用し、シャツ地を使用したシャツジャケットも販売しています。
カバー付きマニカカミーチャ
>>>
マニカカミーチャ(雨降らしの袖付け)も最近は既製品でも出始めました。
そこで、技術的に一ひねりして、見た目にも斬新な雨降らしの肩先にカバーを付け、カジュアルな中にも砕けすぎない 雰囲気を出すようにしました。
これならビジネスジャケットとしても十分使えます。
■ 当社の
職人育成プログラム
■
当社はこのように風変わりな考えの縫製工場ですが、職人育成のため次のようなプログラムを計画しています。
1.経験者採用
>>>
オーダースーツ縫製の実務経験者は即戦力となりますので通常採用いたします。
2.服飾系専門学校卒
の方
>>>
このような方が、戦力になるまで
少なくとも1〜2年の実務経験
が必要です。
そして、残念ながら当社はこのような方にお給料をお支払いしながら技術を教える程、余裕がありません。
そこで
次のプログラム
をご用意しています。
縫製技術養成コース
(月々50,000円)
>>>
こちらは授業料を払いながら技術を体得するコース。
各工程の技術者から一人一人直接レクチャーを受けながら縫製技術を学びます。
本人の
入校時のスキルとやる気次第ですが、早ければ1年で一通りの技術が体得できます
。
ただし、義務教育の学校とは違いますので、入れば教えてくれる学校とは違い、自身で考え、悩み、実践し、分からないことがあれば聞くといったスタイルの学校です。
※
他の縫製技術養成学校との違い
イブニングスクール(夜間学校)のような形で週1〜2回程度の学習講座を設けている専門学校やテーラーもありますが、当社ではこのような頻度では本格的な職業的技術は身に付かないと考えており、当社の
縫製技術養成コースは原則、
月〜土曜日全て学習に当てることが可能
です。
ただし、講師陣は全員最前線の技術者で、傍らではお客様からの注文を縫いながらの作業になりますので、講師陣が生徒のため
全ての時間で付きっきりになれる訳ではありません
。
丁稚コース
>>>
こちらはお給料を貰いながら技術を体得するコース
お給料を貰う分、仕事もしなくてはなりません。
そして、仕事には次のような事があります。
事務作業関係:
各取引業者から来る仮縫いの手配やスケジュール管理などを行います。
販売店での販売応援:
僚店であるオーダースーツ販売のお店へ派遣され、主としてイージーオーダーの接客等を通じ、オーダーの知識を深めます。
工場での縫製と販売を交互に行いながら技術を学びます。
なお、こちらのコースでは社宅利用も可能です。
<補足>
両コースとも服地や資材提供などは協賛企業からの賛助を頂きながら行いますので、教材等の自己負担は極力少なく本格的なオーダースーツ素材で仕立てることになります。
□ カリキュラム一覧 □
技術を覚える過程は、技術水準に応じて個別に対応しますが、概して次のようなステップを重ねつつ技術習得に努めます。
レベル1:初年度
穴かがり
内ポケット作り
まつり縫い(裾、見返し、アーム内側)
レベル2:半年後〜1年後
胸ポケット作り
腰ポケット作り
ダーツ付きポケット作り(クセ取り開始)
簡易なお直し
レベル3:2年目以降
ダーツクセ取り
芯据え
肩入れ
袖付け
襟付け
各種お直し
■ 在籍者の紹介 ■
梅本 君
(H20.12月より)
梅本君は、某イージーオーダー縫製工場勤務、銀座の某有名テーラー勤務後、縫製技術を極めたいと考え当社の門を叩きました。
自宅は京都ということで通えませんので住まいは都内の社宅から工場へ通っています。
梅本君の場合は、販売店での経験があること、社会人経験がしっかりしていることから
土日は販売店勤務
、
平日は午前中電話番 兼 事務作業
を業務として行いながらお給料を受け取り、
午後から夜にかけては実習
をひたすら行う毎日を過ごしています。
技術の習得には、イージーオーダー縫製工場に勤務していたとはいえハンドの技術面ではまだまだですので基礎は出来ておりますが概ねこのスケジュールで一人前になるのに2〜3年掛かると見込んでいます。
(もちろん本人の努力次第ですが、、、)
また、CADの使用経験などがありますので今後はこういった面で活躍してくれることも期待しています。
ちなみに画像は、最初に特訓をした穴かがり
(フラワーホール作成)
の実習。
初めは、大ボタンホール、次は小ボタンホール、続いて元結いを入れたフラワーホール、最後に、縫いにくい裏地の上へのボタンホール作り(内ポケットフラップを想定)など、一つの作業でも複数の段階を経て、技術習得をしていきます。
番号順に書いてあるのでよく見ると順に上手になっていくのが分かります。
下記画像は、ジャケットの試作品。生地をあちこちから取り揃えたためヘンテコですが、上述カリキュラムと同時進行でこういったジャケット作りも行います。
H21.10現在は、販売店の試作品作りに積極的に協力しています。
イ ジョン ソプ君
(H21.5月より)
イ君は名前からも分かりますが韓国籍のスタッフ。
韓国の大学を卒業後2000年に来日。文化服装学院を卒業後、当社へ入門しました。
イ君の場合は、日本語がかなり達者ということ、真面目な性格ということもあり、梅本君同様、土日は販売店勤務。平日は半日事務仕事、半日研修(夜間も研修)といったスケジュールでこなしています。
梅本君より約半年遅れで入っているためその分技術習得遅れていますが、もともと文化服装学院で専門コースを卒業したこともあり、彼もまた3年程度で一人前になると工場では期待しています。
画像は、イ君が卒業制作として作成した
革ジャン
。
(本人着用)
革は服地と違って肉が厚く縫い直しが利かないため縫製は難しいのですが、非常に良くできた作品です。
また皮革は日本より韓国の方が安いため、イ君が積極的に活躍すれば、ひょっとすると将来当社が革のオーダージャケットなどを新商品として提供する日が来るかも知れません。
2人とも将来がとても楽しみです。
当社は決して規模の大きい、経営的に安定した工場ではありません。
しかし、小規模ならではの小回りの利いた、そして専門性の高い仕事をしていきますので、
興味のある方は気軽にお問い合せ下さい
。
(担当:吉井)